2005年05月05日

イシュタル

SS 最古の英雄

「私は、豊かなる前兆を授けるべく、光に満ちた天界に出現する。私は、我が身の至高さに歓喜の念をいだきつつ、最高の女神として誇らかに歩を進める。私は夕べの女神イシュタル、私は暁の女神イシュタル、最高の統治者として天界の門を開くイシュタルである。至高の存在として、私は、天界を破壊し地上を荒廃させる力を持つ。天と地の祈りに応え、私は天界の蒼穹に光輝あふれる最高者として、私は山をもなぎ倒す。その私の思いを受けられぬというのか?」

 ギルガメッシュはその口元に皮肉な笑みを浮かべる。

「女神よ。あなたの恋人への気持ちがいかほど長続きしましたか? 

あなたの若い頃の恋人タンムズはどんな運命を与えましたか? 

来る年、来る年、生死の悲喜を与えたのは誰ですか?

俺はそのような道化になる気は無い」

「よう言ったギルガメッシュの。己のはいた言葉の咎を受けるがよい」

 イシュタルは叫んだ。

 ギルガメッシュはイシュタルから目をそむけた。まるで醜いものでも見るようなその様にイシュタルは小さく笑った。

 それがギルガメッシュの長い冒険の始まりであった。



〜豊穣の女神〜[由来]

 イシュタルは、各地においてアスタルテ、キュベレ、アプロディテ、イナンナなどの名で崇拝されていた太女神であったといわれます。

『女神たちの中で最も畏怖すべき神であるイシュタルをたたえよ』や、『イシュタルは女王なり』などど様様な賞賛の文句が出ています。

 そこに至る前のイシュタルはもともと金星の神でした。父神に月神、兄弟に太陽神を持ち、亭主として植物の神タンムズがいるといいます。戦闘神であった彼女はアッシリアの国家神として崇められました。その結果、信仰は大きく広がり、力のあった地母神たちの性質を得ていきました。その中でも有名なのは地母神であったイナンナの伝説を受け継いだとといわれる冥界下りです。 

 これは植物の神タンムズが死に、イシュタルが冥界に取り返しに行く話です。イシュタルは冥界の女王エレッシュ・ギ・ガルに力を奪われ、捕えられますが、最後にはタンムズを連れ帰ります。ところがハッピーエンドにはなりません。タンムズは女神の生贄として殺されてしまうのです。だが、冥界から抜け出たタンムズは死ぬこともできずに死と再生をくり返します。それは春に芽吹き、夏に育ち、秋に実り、冬に死ぬ(ように思える)植物の象徴ですがむごいものです。豊穣の女神である

イシュタルは流血により力を維持するのです。

 そんなイシュタルに逆らった唯一の人間を主役にしたのか、世界最初の英雄とされるギルガメッシュ叙事詩なのです。そう考えるとイシュタルは最初の悪役になりますね。

 

 

〜大淫婦〜 [余談]

 黙示録には『大淫婦に対する裁きを見せよう。地上の王たちは、この女とみだらな事をした。地上の人々はこの女のみだらな行いに酔ってしまった』という記述があります。諸悪の根源のように言われるこの女こそがイシュタルなのです。

 イシュタルの神殿には娼婦がいました。暗くどこか汚れたようにキリスト教社会では思われている娼婦ですが、かつては女神の恩恵を与える聖なる職業だったのです。イシュタル自身も『慈愛豊かな娼婦』と呼ばれています。その背景には、人間が神話的英雄になるには、女神とセックスすることが、最も有効だと考えられていたからです。

 キリスト教は一神教であり、そうした他の神の祝福を受けるものを嫌います。キリスト教側はそのため娼婦たちから名誉を奪い、その影に潜む、女神の影を消そうとしたのです。

 それも当然のことで聖書に登場する神を示す称号、『世界の光』、『律法を定める者』、『正義の判事』、『万軍を率いる者』などもともとがイシュタルの祈りの文句にあったものです。神が集合し、吸収されていくのは世の習いですが、一神教であるキリスト教の人々は絶対なるものを認めようとするあまり、それに対抗しえたイシュタルをここまでひどく扱った気がします。
posted by 九十九屋さんた at 08:34| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 白澤図 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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