2005年05月05日

ダゴン

SS 砂漠の神

一人の男が祭壇に供えられている。

 その黒い肌をした精悍な男が捕えられたのは、アシドドの祭りの日、祭壇の主である海神ダゴンを嘲笑したからであった。

 神官が手に大型のナイフを持ち、笑いを浮かべた。

「既に許しをこうても遅い。切り刻まれ神の生贄となるがいい」

「愚かしいな神官よ。ダゴンなどただの従者に過ぎん」

「まだ言うか」

 神官は一撃で首に刃を叩きつけた。

 男は血を流すとそのまま息絶えていた。

「ばかが」

 神官は嬉嬉としながら神へのにえを刻みつづけた。神殿に日の光が差し始めた。神官は動きを止めた。

「どうして」

 祭壇の上で刻まれ壊されていたのはダゴンの神像であった。

 恐ろしさが神官の身体を襲った。隠さなくててはならないと思った神官の身体をより強い光が包み込んだ。そう神殿の扉が開き信徒たちが入ってきたのだ。

 神官はそのまま広場に引き出された。神体を傷つけたものとして。

 信徒たちに身体を切り刻まれながら神官は見た。人々の中に交じり笑むその黒い肌の顔を。

 それは妬み深い神の姿だった。



〜悪しき海神〜 [由来]

 ダゴンはもともとペリシテ人の神でした。その名前はヘブライ語のダグ(魚)とアオン(像)が合一したものといいます。ダゴンはそれを示すように魚と人が合わさった姿をしています。また、カナンでは豊穣神としても崇められていました。それは魚が多卵であることがシンボライズされたようです。

 ダゴンがどれほど信仰されていたか、それが有名なサムソンとデリアの話で見る事ができます。当時、ペリシテ人はユダヤ人と戦っていました。サムソンはその一人としてペリシテ人と戦っていました。サムソンは神から与えられた力を持ち、無敵でした。そんなサムソンはある時、デリアというペリシテ人の美しい女に恋をします。そしてサムソンとデリアは結ばれました。それが惨劇の始まりでした。そう、サムソンの持つ力は髭を切らない事で保たれる約束だったのです。デリアはサムソンを眠らせその間に髭を切ってしまいました。サムソンは両目を潰され、牢獄に掴まりました。ダゴンの祭りの日、サムソンは引き出されなぶり者にされました。それは失敗でした。捕えられた間、サムソンの髭は伸び、再び力を取り戻していたのです。サムソンは神殿を支えていた二本の柱を引き抜くとそのまま祭りに来ていたペリシテ人ごと捨て身で死んでいったのです。



〜新たな展開〜 [余談]

 ダゴンはそのままエホバに捕えられ、地獄に閉じ込められたといいます。悪魔としてはあまりぱっとせずに過ごします。しかし、彼は新しい神話となって蘇ります。そうクトゥルー神話のダゴンです。

 そこでのダゴンは何万年も生き、並外れた大きな身体を持っています。インスマス沖の悪魔の岩礁に近い海底に住み、

深きものども(インスマウス人:半魚人のような存在。尾のない両棲類のような姿。人間との混血も可能でなおかつ不死身)と呼ばれるものたちの長です。深きものどと通婚した人間たちの合衆国での本拠であるインスマスで「ダゴン秘密教団」の中で崇拝されています。

 そしてビルマのある地方ではダゴンにはこうした伝承が伝わっています。

「神が世界を滅ぼすことはあっても、ダゴンは別の美しい世界を創造し、ずっと美しく住みやすくなるだろう」

 そういう伝承が残っているのは不思議な事ですが、元来の豊穣神であった姿を見ると自然な事かもしれません。
posted by 九十九屋さんた at 08:34| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 白澤図 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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