2005年05月01日

ナーガ

SS 地下世界の王

 闇の中を手探りで進んでいるのが苦痛に思えなくなってきた。

 全ての願いを適える宝を求め、鍾乳洞に入った俺たちを襲ったのは多くのモンスターではなく自分たちの心だった。

 裏切りや、遭難、さまざまな事により一人一人引き離され、道に迷い孤独になっていった。

 たまたま手に触れた小魚や生き物、虫、飢え死にしないために何でも食べた。

 その魚の味が変に金属の感じがした。最初は錯覚だと思った。時折、金属の感じがする魚がいる。

 俺は金属の強い感じのする魚を求めて移動していった。

 不意に目に激痛が走った。それは光だった。ずっと物を食べていなかった人間にごちそうを与えると吐くように、目が光に慣れるのには時間がかかった。

 光になれた俺の前に現れたのは洞窟いっぱいに広がる砂金の湖だった。

 俺は砂金を抱きしめて笑った。そして一頻り笑った後、絶望を感じた。地上に出られなければ黄金など意味は無い。ここでは魚も金物臭く生きるのも難しいだろう。

「こんなものより俺は表に出たい」

 不意に黄金の光が陰り、霧が出始めた。

 そこには美しい女が立っていた。しかし足元にいくに従って鱗が混じり足に

至るまでは蛇のように変わっている。

 ナーガ。半人半蛇の亜人種。強大な魔力を持つ種族だ。

 ここがナーガのものなら生きてはいられまい。

 ナーガは近づき冷たい手が俺のひげまみれになった頬に掛かる。ナーガは

笑い、それきり何もせずに背を向けて離れていった。

「どうして何もしないんだ」

 ナーガは振り返り、俺を見つめた。美しいがあどけない表情がそこに見える。

「理解したものには十分だ」

 霧が俺を包み始めた。そして俺は意識を失った。

 目を開けるとそこは洞窟の入り口だった。周りにはパーティの仲間たちが

倒れている。

 しかし誰もが洞窟に入る前のように見える。

 全てはナーガの幻だったのかもしれない。俺は立ち上がり、歩き始めた。俺にとっての黄金に勝る日の光を浴びながら。



 

〜地下世界の王〜[由来]

 ナーガは鎌首を持ち上げ、今まさに襲おうとするコブラがモデルになっています。その姿で描かれる事もあるのですが、頭や上半身が人間で、下半身が蛇というものの方が一般的です。その姿はメリュジューヌやジョカなど世界中で見られる姿であり、そうした姿をしたものをト−テムにしていた一族が多いのを示しているのかもしれません。

 伝説としてはナーガはカシュヤパ聖仙と妻ガドルーの間に生まれたといいます。聖仙は自分の子供たちに地下の一番深く生命のいない世界である

パーターラに住む事を命じました。ナーガは地下の世界の王となりました。

そして地下のその世界はナーガーローカ、ナーガのいる世界と呼ばれるようになったのです。

その手にもったマニ宝珠は日本語では如意宝珠と呼ばれ全ての願いをかなえるといいます。

 如意宝珠と聞いておやっと思った方もいると思います。いわゆる竜王と呼ばれる存在が持つ珠もまた如意宝珠だからです。ナーガは中国に伝わる時、竜の字があてられた為、中国の民間伝承や、仏教の教義が入り混じり、竜王にもナーガの特徴の一つが残っているのです。こうして中国という新しい世界の中でナーガの権威は無くなり、竜王として孫悟空やらナタクに退治されてしまうものになってしまうのです。



 

〜一夫多妻〜 [余談]

竜と不死鳥の争いは古今東西さまざまな場所で見られますが、ナーガとガルダの争いもそれに含まれます。しかし他の神話が大まか印象を持つのに比べインド神話でははっきりしています。

 ナーガの父であるカシュヤパ聖仙はアスラを始め多くの生き物をさまざまな妻と共に生み出しました。その子供の中にはナーガの仇敵であるガルダも含まれているのです。

 ガドルーと、ガルダの母であるヴィナターは、太陽の尾をひく、鷲の尾の色について賭けをし、負けた方が奴隷になる約束をします。結果は黒でガドリーの勝ちでした。しかし本当はヴィナターの賭けていた白であり、黒く見えたのはナーガが巻きついていたからです。

 奴隷となったヴィナターを助けようとするガルダたちに、ガドルーは天界に行きアムリタを奪ってくるように命じます。ガルダはその命を果たし、アムリタを奪います。それを渡し母を解放するのです。

 奪ってきたアムリタを飲もうとするナーガに向かいガルダは沐浴するようにいい、その間にアムリタを飲んでしまいます。それがナーガとガルーダの争いの始まりといわれていますが、妻同士の嫉妬という理由こそつけられているものの、すさまじいものですね。
posted by 九十九屋さんた at 09:17| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 白澤図 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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