「本当に愛しています」
その言葉は聞こえたのか。四郎さまは笑みを浮かべて見ている。今の大人びた甘さのない顔を見ているのに、はじめてあった幼さの残る顔を思い出していた。
その体から揺れながら散って行くそれを私は吸収した。
四郎さまの魂は私の中で吸収される。その度に思い出が広がった。
何て言う時間だったのだろう。本当に私は毎日生きていた。楽しくて悲しくて切なくて愛しくて。
四郎さまはもう動かない。
「おやすみなさい」
四郎さまの魂を力に変えた。鋼の一対の翼が、体を覆う鎧の体。
もう一度この姿をすることになるとは思わなかった。この姿は死の天使。
相手は本当の天使だ。天使病で現れたような、サタナエルが作り出した人間の中に組み込まれた光が活性化したものではなく、本当の大天使。
よほどこの世界の律を彼は守りたいのだろう。いや、妬み深い彼はもう長い間、耐えていたのかもしれない。自分のものであるそれらが世界を闊歩し、自分が忘れられていくのを。
そんなこと私には関係ない。今するのは目の前の天使を排除する。
こちらを見る目が分かった。驚愕が殺意に変わるのはすぐだ。私を見ればそう感じて当然だ。この姿は自分によく似ていることだろうから。
天使が飛び込んでくる。交わすのはたやすい。だが、後ろのビルには四郎さまが守りたかった人たちがいる。
四郎さまのいない今、魔力による内部破壊はできない。だから外から全てを破壊する。
私は大天使を見た瞬間に襲い掛かっていた。少女めいた顔が驚きに満ちた。
「灰は灰に」
小さく音がした。天使の体が切り裂かれ、いっぺんいっぺんが炎に包まれ落ちてゆく。
「塵は塵に」
2005年05月01日
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