2005年05月01日

恋愛10選 05.図書館の一角で

 調べ物は捗っていない。

 四郎さまは書物にかじりついている。ああして目をこらしても、理解できないものはできないのに難儀な事だ。

 中国語なら自力でどうにかなるといって始めたのだが、四郎さまの中国語では手が出せない代物のようだった。

 発見された石板をそのまま写真でとり本にしたものだ。甲骨文字で書かれたそれは難しい事だろう。

 だが、今回の一件にはこれを理解するのが必要だった。

 御使い。そう呼ばれる人々は増え始めていた。天使病とも呼ばれるそれに感染すると文字通り天使となる。背中からは美しい翼が生え、不思議な安らかさを手に入れる。それだけならいい。だが、天使病は人々の中に軋轢を生み出した。天使病になったものの中で、天使になれたものは幸運だった。少なくとも生きている。だが、そこまで到達できなかったものの多くは、失踪を遂げていた。

 石板の内容は天使に関わるものだった。いや、飛天か、迦陵頻伽というべきか。

 今の事件、天使病がはやりつつある今日、同じことが中国で戦国時代の末期に起こったのが分かった。続く泰の時代の思想統制で消し去られず残ったのは、石に彫られていたからだ。

「わからねえ」

 四郎さまは叫ぶとひっくりかえった。幸い入場者が制限される書庫で見ている人間はいない。

 四郎さまと目があった。

「悪い。疲れたなら休んでてくれ」

「何度ももうしましたが、私が人の姿をしているだけなので」

「分かってるんだけどね。どうも、その姿だと」

「武器になっていても構いませんが」

「いいよ。うまい紅茶飲めなくなるし」

 四郎さまは再び書物に挑み始めた。

 何げない時間だった。

 私はせめておいしい紅茶を容れる事にした。
posted by 九十九屋さんた at 08:39| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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