2009年11月07日

一つ目 籠の目

 ある男が、用事があって、とある武家屋敷に赴きました。部屋に通されて待っていると、十歳ほどの小僧が姿を見せます。客人がいるというのに、床の間の掛け軸を、巻き上げたり下ろしたりして遊び始めました。しばらくの間は放っておきましたが、どう見ても巻物は傷んでいくのが分かります。いい加減我慢しきれなくなり、声をかけました。すると小僧は「黙っていよ」と振り返りました。その顔には目が一つしかありませんでした。男はそのまま腰が抜けて、倒れてしまいました。その後に屋敷の者の話を聞くと、そのような怪異が年に四・五回はあるが、特に悪さはしないとのことでした。その後、男は二十日ほど寝込んでいましたが、命を失うようなことはなかったそうです。

 前にかぶきり小僧についてのお話しました。これで皆さんもかぶきり小僧について知っていただけなら幸いです。
 ところで小僧の妖怪が何となく多いというのは感じられていると思います。最近では京極夏彦さんが小説の主役にもしました豆腐小僧などがあります。しかし、小僧の妖怪でメジャーなものと言えば、何より一つ目小僧ではないでしょうか。
 一つ目小僧といえば、黒い袴に白い上着に下駄。そんなお寺の小坊主の目が一つ、この姿はあくまで自分のイメージですが、割合誰にでも近い姿を想像できるのではないかと。今まで、ここで妖怪を紹介してきましたが、ここまで想像がたやすいのは、のっぺらぼうか、雪女くらいのものではないでしょうか。

 しかし、そのような親しみやすい一つ目小僧には実は大きな秘密が隠されているのです。
 季節の変わり目、体調とか崩しやすいことはありませんか?
 そうした事を神さまの仕業と考える風習もありました。そうした災難を持ち込む神さまを厄神と呼ばれたのです。『この疫病神が』と良く聞きますが、それが所謂厄神のイメージです。
 そんな厄神も、ただ闇雲に禍を振りまくのではありません。実は事前に、手下を放ち、またいろいろなところで依頼して、人々の行動を見ているのです。
 その使いは誰かというと、そう一つ目小僧なのです。
 一つ目小僧は、家を外からうかがい、帳面(人別帳)に記録をとります。そして判子を押したり、フタを張ったりして目印をつけます。ところが人々の数が多く、一つ目小僧は帳面を持ちきれません。そこで地元の神様(道祖神や境の神、産土神さま)のところに預けておきます。
 さて困ったのは地元の神様です。彼らは、氏子の事を、この世にいる間、見守る存在です。みすみす見逃すわけはありません。しかし、神様同士の付き合いもあります。そこでこういうのです。
「間違って焼いてしまった」
 一つ目小僧はそれを聞いて、ではしょうがないと、厄神のところに戻っていくのです。
 どう考えても毎年の事なので、一つ目小僧の方でも何となく察してはいるが見逃しているような気がしてなりません。
 しかし、それではまさに対応が神頼み。人の側にも対抗する手段があります。

 幼稚園の頃。夕方、帰ってくると、ザルが屋外に置き去りにしてあって、家に持って入りました。その事を告げると、祖母は笑顔で、受け取ったザルを再び外に置きました。理由を尋ねても教えてはくれませんでした。
 ザル、そしてよく勝手口に飾ってあった柊。この二つが実は、一つ目小僧除けてあったのを知ったのは、祖母が亡くなって十年以上たってからでした。

 一つ目小僧は家の中を覗いて、記録をとったり、印をつけるといいました。家の中さえ覗かなければ大丈夫なのです。そこで鰯を枳の枝に刺したり、柊や榊を飾りました。これは覗こうという時に目を刺して、覗けないようにする為です。続いて籠やザル。これは籠やザルを見ると、つい目を数えはじめてしまい、時間切れになってしまうそうです。

 最後に厄神そのものとしての一つ目小僧のお話を。
 魔日というのがあります。行動すると災厄にあってしまうと言われる日。そんな魔日、山では仕事を休んで山を降りなければなりません。一人の男は山を下りようとしませんでした。一度降りれば山の仕事場に戻るのに時間がかかり、もったいないと思ったのです。夜、眠っていると、物音がしました。塩気のあるものを求めて熊でも来たかと男は、素早く起き上がります。そこにいるのは一つ目小僧でした。
「今夜の酒のさかなは何だあ」
 一つ目小僧がそういうと、男は腹に力を込めて怒鳴り返します。
「お前のまなこ玉だあ」
 驚いた一つ目小僧は逃げ出しました。
 男は夜が明けるのを待って、山を下りました。しかし、直ぐに死んでしまいました。
posted by 九十九屋さんた at 15:38| 千葉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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